郷土料理・食文化の聞き書きのやり方|書籍「岩手の食事」を参考に

「聞き書き(ききがき)」という言葉を聞いたことはありますか。昔から使われてきた手法で、聞き書きによる郷土料理の本なども出版されています。私は2015年に聞き書きを学び、取材や執筆の仕事を通して実践してきました。

聞き書きの一番の魅力は、料理だけでなくその土地の魅力や作り手の想いを伝えることができること。今回の記事では、書籍「岩手の食事」を参考にしながら、聞き書きの魅力ややり方についてお伝えします。

〇この記事を書いた人……薬膳と郷土料理の研究家 松橋かなこ

「聞き書き」をする意味とは

「聞き書き」とは、ある人物の話を聞きながら、その内容を文字に起こす作業のこと。通常、インタビューや取材の際に使用されます。

聞き書きは、さまざまな形式や目的で行われます。例えば、ある人物の経歴や人生についてのインタビューを行い、その内容を記事や伝記としてまとめる場合があります。

また、料理や食に関する分野では、食の専門家やシェフとの対談を通じて、経験や知識を共有することもあります。

私は郷土料理の作り手にインタビューをして、レシピを聞き書きした経験が多数あります。

その経験から感じていることとして、郷土料理は「実際に作っている」ことと「レシピを伝えられる」ことは別物である場合が多いということ。

というのは、郷土料理の作り手のなかには「(レシピなどではなく)長年の感覚をたよりに料理を作っている」という人が多いからです。

そこには「その人にしか出せない味が出せる」という魅力があります。一方で、「料理を後世に残したい」というときには「レシピに起こす」という必要が出てきます。

そんなときに「聞き書き」が大活躍します。

レシピだけでなく「よもやま話」にも価値がある

聞き書きの魅力は、「レシピとして記録できること」だけではありません。料理にまつわる作り手の想いや「こんな場面で食べてきた」といったエピソードにも大きな意味があります。

また、時代の変化とともに郷土料理の作り方が変化するケースもあります。

たとえば、愛知県や長野県の郷土料理「五平餅」は甘辛い味噌を塗ったものですが、砂糖が貴重だった時代は塩味で作ることもあったそうです。

こうした話は、聞き書きだからこそ知ることのできる貴重な情報で、長い間受け継がれてきた郷土料理ならではのものです。

聞き書きをするなかでこうした「よもやま話」に触れる話があれば、ぜひ書き留めておきましょう。

〇郷土料理は季節の行事やお祭りなどに使われることも多く、人々の思い出と密接に関わっています。ブログ記事「季節行事と郷土料理の関係|心と体を育む大切な存在」も参考にしてみてください。

書籍『聞き書 岩手の食事』に学ぶ聞き書きの魅力

郷土料理に詳しい人であれば一度は手に取ったことのあるシリーズ本「日本の食生活全集(出版:農山漁村文化協会)」。

全国300地域、5000人の話者から聞き取った各地の郷土料理や食文化が、全50巻の本に収録されています。

そのなかのひとつが『聞き書 岩手の食事』。岩手県を「雑穀文化圏」「粉食文化圏」など5つの地域にわけて、それぞれの食文化や料理の特徴を解説しています。

レシピはグラム表記ではないものもあり、不便に感じる人もいるかもしれません。しかし、それも含めて郷土料理ならではの味わい深さだと私は感じています。

この本が出版されたのは、1984年。今から約40年前の情報が少ない時代に、よくこれだけの内容を聞き書きしたものだなぁと感心します。

こうした本は、その地域固有の食文化や料理を後世に伝えていくための大きな手助けになります。

聞き書きをする際のポイント2つ

聞き書きをする際に、私がいつも意識している2つのポイントを紹介します。

話す人物との信頼関係を築く

相手が落ち着いて自由に話せるように、リラックスできる雰囲気づくりや相手との信頼関係を構築するように心がけます。これは、聞き書きに限らず、インタビュー全般に共通することです。

私の場合は、事前に入念な情報収集をしておくように心がけています。そのなかから相手との共通点を見つけて、聞き書きに入る前にその話題に触れることが多いです。

話す人の言葉やその場の雰囲気をしっかりと記録する

聞き書きでは、相手が述べた内容を可能な限り正確に聞き取り、現場ならではの雰囲気をしっかりと記録しておくことが大切です。

その時、その場だからこそ得られるものが必ずあるはずです。

聞き書きした内容をもとに、記事や出版物などの成果物を制作していきます。その際に、編集スタッフやデザイナーなど、当日現場にいなかった人たちが制作に関わるケースもあります。

記録を充実させておくと、現場の雰囲気をほかのメンバーと共有し、よりよい成果物を作る上でとても役立ちます。

聞き書きのやり方|8つのステップ

ここでは、聞き書きの大まかなやり方について8つのステップにわけて解説します。

  1. テーマと目的の設定:聞き書きの目的やテーマを明確にします。たとえば、特定の郷土料理に焦点を当てるのか、地域の食文化全体に注目するのかを決めます。「ここで得られた情報をどのように活用したいのか」についても予め考えておきましょう。
  2. インタビューの対象者の選定: 聞き書きをする対象者を選びます。ここでは、料理人や地域の有識者、地元で代々暮らしている家庭など、郷土料理に関連する経験や知識を持つ人を選ぶことが大切です。
  3. インタビューの計画:インタビューを行う場所や日時を決めて、参加者に事前に説明します。撮影やインタビューの許可を得るための同意書などが必要な場合は、事前に準備しておきましょう。
  4. 質問の準備:インタビューするための質問を予め準備します。料理の歴史や起源、伝統的な調理法や使用される食材、料理にまつわるエピソードなど、いろいろな視点から質問することが大切です。
  5. インタビューの実施:話しやすい雰囲気を作りながら、インタビューを進めます。その場の状況に応じて、臨機応変に対応します。料理の実演など、実践的な要素を取り入れるようにします。必要に応じて、調理の途中で適宜計量し、しっかり記録します。
  6. データ整理とレシピ試作:インタビューが終わった後、できるだけ早めにデータの整理と重要なポイントの抽出を行います。当日の記録をもとに、レシピの試作を行います。
  7. 情報の検証:インタビューで得られた情報が正確であるかどうかを検証することも重要です。ほかの文献や地域の歴史などを参照し、必要に応じて、インタビューの内容を補完します。
  8. 成果物の制作とふりかえり: 得られた情報をまとめて、web媒体での記事や出版物などの成果物を制作します。地域の関係者や一般の人々と成果をふりかえることで、地域の食文化や文化の保存など今後の展開に役立てることができます。

聞き書きで郷土料理や食文化をのこし、伝えていこう

聞き書きは、郷土料理や食文化をのこし伝えていくために欠かせない手法です。聞き書きをすることで、今までは意識していなかったその土地の魅力や作り手の想いに出合うことも多くあります。

大切な郷土料理や食文化を後世に伝えていくために、聞き書きをぜひ取り入れてみませんか。

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