人々の手から生まれる|絶品バインミーとの出会い(世界の郷土料理1)

世界一周旅行での体験と自身の活動(養生ふうど)をもとに「郷土料理とは何か?」を考えるシリーズ企画(企画の概要についてはこちらをご覧ください)。

第1回は、ベトナムで出会った絶品バインミーや、メキシコシティの日本料理店の事例、「おばあちゃんの知恵ゼミ」での気づきを紹介しながら、郷土料理を考える6つの視点のひとつ「人々の手から生まれる」について考えてみましょう。

〇この記事を書いた人…薬膳と郷土料理の研究家 松橋かなこ

おばあちゃんが作る、絶品バインミー

バインミーとは、ベトナム版のサンドイッチのこと。柔らかいフランスパンに、ベトナムハムや卵、レバーペースト、ニョクマム(ベトナムの魚醤)で味付けされた大根や人参、パクチーなどの香味野菜を挟んだものです。

ベトナムはフランスの元植民地であったことから、フランス料理の影響が随所に残っています。バインミーもその一例です。ベトナムの主食は米ですが、バインミーは手軽に食べられるファーストフードして、現地の人たちにも人気です。

ベトナムを旅していると、バインミーを作る屋台をあちこちで見かけました。持ち運びにも便利なので、バスなどでの移動の際にバインミーを購入することもしばしば。

そのなかで偶然出会ったのが、ベトナムの中部都市・ホイアンでおばあちゃんが作ってくれたバインミー。翌日早朝に出発するために、朝食用として買っておいたのですが、これが絶品でした。

日本では「心を込めて握ったおにぎりはおいしい」「おにぎりは、握る人によって味が変わる」といわれることがあります。これは、バインミーにも共通していました。特別な具材を使っていないのに、何だか、とっても、おいしい!

ニョクマムやパクチーの香りは、ほんのりと爽やか。具材がたっぷり入っているのにコンパクトで食べやすい。ベトナム料理の繊細な魅力がそこかしこに感じられて、旅人の食欲と心を存分に満たしてくれました。

旅先で食べる料理は、その日の天候や体調などちょっとしたことで味の感じ方が変わってしまうもの。いろんな要素を察知して、おばあちゃんは現地ならではのバインミーを作ってくれたのかもしれない。

そうだとしたら、その味に出会えたことがとても嬉しいと感じる体験でもありました。

メキシコシティでの不調を救ってくれた日本料理店

「旅先では、できるだけ現地のものを食べたい」と常々思っています。でも、長期間の旅において体調を崩した時などは、日本食を身体が欲することも。

メキシコシティで高山病による体調不調時(※1)に行ったのが、メキシコ人と日本人のハーフである友人のお母さんが営む日本料理店でした。

その日にいただいたのは、海苔巻きや味噌汁、野菜のおかず、日本茶など。

メキシコで調達できる材料を使って作っているのに、まるで日本で食べているようなホッと落ち着くような味わい。そこには、お店のオーナーである、日本人のお母さんの想いが溢れていました。

気分が優れず食欲不振が続いていたのがウソのように、あっという間に完食。食後しばらくすると、身体の奥底から元気が湧いてきました。お店を出る時に、友人のお母さんに何度もお礼を言ったことをよく覚えています。

※1…メキシコの首都・メキシコシティは、標高2,200mを越える高地にあります(富士山の標高は3,776mなので、その五合目付近の高さ)。メキシコシティに来ると「高山病」にかかる日本人が多いそうです。

高山病は、高地で酸素濃度が低くなることにより、頭痛やめまい、吐き気、食欲不振などの症状が現れるとされています。

「おばあちゃんの食の知恵ゼミ」は、エピソードを共有することからスタート

ベトナムのバインミーや、メキシコシティの日本料理店での体験を通して、「人々の手から生まれる食」の魅力を強く感じました。

こうした体験は、2019年~2020年に養生ふうどが企画・開催した「おばあちゃんの食の知恵ゼミ(※2)」にもつながっています。

初回のゼミでは、集まったメンバーとともにまず「(自分にとっての)おばあちゃんの知恵とは?」「おばあちゃんの知恵に期待するものは何か?」を考えることからスタート。

インターネットなどで「おばあちゃんの知恵」と検索すればたくさんの情報が出てきます。

しかし、知恵だけを紹介することに、どれほどの意味があるのでしょうか。そして、それが本当に困っている誰かの役に立つのだろうかー。そんな疑問を抱いていていました。

そこで、ゼミでは、おばあちゃんの知恵自身を切り離して考えるのではなく、そこにはどんなおばあちゃんが存在し、どんなエピソードがあるのかを共有することから始めました。

参加したメンバーのなかには「大切なことを思い出した」「気になっていたことを整理できた」と語る人もいました。

※2…ゼミの正式名称は「おばあちゃんの知恵から学ぼう、食から始まるシンプル暮らし術」。なごや環境大学ゼミナールとして企画・運営したもの。

「人々の手から生まれる食」として、郷土料理を伝えていく

人々の手から生まれる食には、何ともいえないおいしさがあります。作り手やさしさや温もりにあふれており、時として疲れた心身を癒してくれます。

今回は、ベトナムで出会った絶品バインミーや、メキシコシティの日本料理店の事例をご紹介しましたが、きっと誰にでも、思い当たるエピソードがあるのではないでしょうか。

郷土料理を考える時には「人々の手から生まれる」という視点をとても大切にしています。そんな郷土料理の魅力を発掘し、ぜひ一緒に伝えていきませんか。

●次回(第2回)のテーマは、「地域ごとに伝承される」。引き続き、郷土料理の6つの視点から、郷土料理について考えます。

●養生ふうどでは、「郷土料理イベント」の開催や「郷土食サポーター」の募集を行っています。ブログの感想や質問なども随時受付しています。お問合せフォームからお気軽にご連絡ください。