地域ごとに伝承される|タオスのパンの力強さとは(世界の郷土料理2)

世界一周旅行での体験と自身の活動(養生ふうど)をもとに、「郷土料理とは何か?」を考えるシリーズ企画。

前回(第1回)は「人々の手から生まれる」をテーマに、郷土料理の根っこにあるストーリーや、人の手の温もりをお伝えしました(企画の概要についてはこちらをご覧ください)。

続いてのテーマは、郷土料理の6つの視点のうちの「地域ごとに伝承される」。

タオス・プエブロで出会った土窯パンや、モロッコとフランスのクスクス料理の違い、「NANTOの野草茶」プロジェクトなどを紹介しながら、郷土料理について考えてみたいと思います。

〇この記事を書いた人…薬膳と郷土料理の研究家 松橋かなこ

タオス・プエブロのパンの力強さとは?

小麦粉を主原料として作られるパンは、世界のさまざまな国で食べられています。旅先では数多くのパンを食べました。そのなかでも特に印象に残っているのが、タオス・プエブロで出合ったパンです。

これまでに感じたことのない力強さがあり、噛みしめるほどに奥深い味わい。その味は、一体どこからくるのでしょうか。

世界遺産「タオス・プエブロ」とプエブロ・インディアン

タオス・プエブロ(※1)は、アメリカのニューメキシコ州にある集落。ネイティブアメリカン達が1000年以上に渡り住み続けてきた集落のひとつです。特徴的な住居はアドビ建築と呼ばれる様式で、日干しレンガで作られています。

この集落は、現地では「タオス・プエブロ・インディアン・マンション」と呼ばれています。最大5階建てになっていて、遠くからでもすぐに認識できます。

プエブロ・インディアンたちは、乾燥して痩せた土地で農作業を細々としながら、芸術活動や観光業などで生計を立ててきました。現地には、古い歴史を持つ土器文化があり、芸術面で才能を発揮する人も多く生み出しています。

タオス・プエブロの周辺に点在する、プエブロ・インディアンのほかの集落も訪問しました。敷地の片隅には、何かの儀式に使われていたような円形の造形。その隣には、円を描くように並べられた石や木片の姿も。

正面に立ってみると、何とも言えない温かさを感じました。

旅に出る前後で、書籍「スピリットの器ープエブロインディアンの大地から(著者:徳井いつこ、出版社:地湧社)」を読みました。土器やインデアンの暮らしが綴られた本です。

そのなかで、たびたび登場する「スピリット」という言葉。

「スピリット」や「スピリットが宿る」というのはどんな意味を持つのだろうかか。遠くまで広がる大地のなかで暮らし、ものづくりをするとはどういうことなのかー。

現地を実際に訪れてみて、その意味が少しだけ理解できたような気がしました。

※1 参考:タオス・プエブロ(英語サイト) https://taospueblo.com/

集落にある土窯で、パンを焼く

集落の一部には、土で作られた窯の姿もありました。冒頭にご紹介したパンは、この窯で焼かれたものです。自然の火力を使っているため「焼きムラ」もあるし、均質ではありません。

パンに感じた力強さは、まぎれもなく、長い時間をかけて家族や地域で伝承されてきたもの。その力強さは、パンだけでなく、現地の暮らしぶりやものづくりにも共通する部分が多く、スピリットにも深く結びついていると感じました。

世界一周旅行の最初の目的地・アメリカ。料理を食べて底知れない「力強さ」を感じたのは、このタオス・プエブロが初めてだったかもしれません。「地域ごとに伝承される食」を肌で感じた、忘れられない体験のひとつです。

モロッコとフランスの「クスクス料理」の違いとは?

続いてのテーマは、日本のカフェでも人気のクスクス料理について。何とも不思議な響きの食材ですが、クスクスはパスタの一種であり、原料はデュラム小麦。「世界最小のパスタ」ともいわれており、見た目は雑穀にもよく似ています。

クスクスの発祥はモロッコなどの北アフリカ諸国といわれていますが、現在は欧米諸国でもよく食べられています。

世界一周旅行でも、クスクス料理に何度か出会いました。そのなかから、モロッコとフランスのクスクス料理について、ご紹介しましょう。

ケスカス鍋で作る、モロッコのクスクス料理

モロッコの主食はパンですが、クスクスもよく食べられています。シンプルな食べ方は、蒸したクスクスに有塩の澄ましバターを乗せたもの。この上に野菜や肉を加えたり、バターではなくシチューやスープをかけたりすることもあります。

多民族が暮らすモロッコでは、料理に使用する調味料やスパイスも多種多様です。たまたまご縁があり、モロッコの一般家庭にホームステイしましたが、その際にもさまざまなスパイスを石臼で挽いて料理をしていました。

クスクスに、スパイスの効いたスープが染み込んで、何とも落ち着く味わい!和食でいえば、出汁の効いた雑炊のおいしさに似ているかもしれません。

ちなみにモロッコといえば「タジン鍋」が有名ですが、クスクスを料理するときには専用の調理器具「ケスカス鍋」を使用します。ケスカス鍋は二段になっており、上の段でクスクスを蒸し、下の段でシチューを同時に作ることができます。

クスクスを使った、フランスの定番サラダ「タブレ」

クスクスは、フランスでもよく食べられています。フランスの定番のお惣菜のひとつ「タブレ」は、サラダ感覚で食べられるクスクス料理。スーパーなどでも売られており、使用する具材や味付けにもいろんなバリエーションがあります。

基本的な作り方は、お湯で蒸したクスクスに、刻んだトマトやきゅうりなどの野菜、パセリなどのハーブ、レモン汁、オリーブオイル、塩で味付けします。手軽に作れて、時間が経ってもおいしいのが特徴です。

モロッコなど北アフリカ生まれのクスクスですが、フランスではまったく違う味わいの料理に変身しています。これもまた、「地域ごとに伝承される食」のひとつの在り方といえるのではないでしょうか。

日本にもある!富山県南砺市の野草茶と野草文化とは

郷土料理を考えるための視点のひとつ「地域ごとに伝承される食」。この視点は、養生ふうどの活動にそのままつながっています。

写真は私の祖父母が暮らしていた砺波平野の散居村(富山県南砺市)の野草を独自にブレンドした「NANTOの野草茶」です(以前に、養生ごはん教室やメニュー監修をしていたカフェ、マルシェなどで提供・販売していました)。

散居村には、約7,000戸の民家が点在しています。私の祖父母もそうでしたが、稲作など農業を営みながら、家の周りの屋敷林や畑で野菜や野草を育てています。

屋敷林は冬は暖かく夏は涼しく過ごすためだけでなく、炊事の燃料や生活道具を作る材料としても使われてきた歴史があります(※2)。

散居村の暮らしには、自然と共生するための暮らしの知恵が凝縮されています。現地に古くから根付く野草茶や野草文化もそのひとつです。

私の祖母の例でいえば、野草を毎年摘んで野草茶を作り、離れた土地で暮らす私や両親に届けてくれました。その野草茶を飲むたびに、祖父母や現地のことを懐かしく思い出します。

野草や薬草、ハーブなどは、国内外さまざまな土地のものがインターネット通販などでも気軽に購入できるようになりました。しかし本来、野草は、特定の地域や人々と深く結び付いているものではないでしょうか。

野草が持つ効能や味わいだけでなく、その背景にある地域性や人々の暮らしも一緒に伝えていきたい。そして、それこそが「私たちの心身を本当の意味で癒してくれる」と信じて、野草茶の提案を行っています。

※2 参考:となみ散居村ミュージアム https://sankyoson.com/

食や食文化を、地域ごとに伝承していく

今回は、タオス・プエブロの土窯パンや、モロッコとフランスのクスクス料理、南砺市の野草茶と野草文化を紹介しながら、地域ごとに伝承される食や食文化について考えてみました。

核家族化や、地方での少子高齢化・過疎化などが進む昨今。

本来であれば地域で受け継がれていくはずの食や食文化が、なかなか伝承されていない状況があります。そうした状況を真に受け止めて、私たちに何ができるのかを一緒に考えてみませんか。

●次回(第3回)のテーマは「コミュニティや文化をつくる」。引き続き、郷土料理の6つの視点から、郷土料理について考えます。

●養生ふうどでは、「郷土料理イベント」の開催や「郷土食サポーター」の募集を行っています。ブログの感想や質問なども随時受付しています。お問合せフォームからお気軽にご連絡ください。