コミュニティや文化をつくる|アジアの屋台が生み出すもの(世界の郷土料理3)

世界一周旅行での体験と自身の活動(養生ふうど)をもとに、「郷土料理とは何か?」を考えるシリーズ企画。前回(第2回)は「地域ごとに伝承される」をテーマに、その地域と食との関わりや食が果たす役割について考えてみました。

続いて第3回のテーマは、郷土料理の6つの視点のうちの「コミュニティや文化をつくる」。これまでとは視点を少し変えて、郷土料理を取り巻くさまざまなモノ・コトに注目します。

アジアの屋台やフランスのカフェ、トルコの市場の様子、小冊子「風土食ノート」、味噌づくり会での気付きなどを紹介しながら、郷土料理について考えてみましょう。

〇この記事を書いた人…薬膳と郷土料理の研究家 松橋かなこ

アジアの屋台が生み出すものは?

アジアの国々を旅していると、いろいろな場面で屋台を見かけます。

ベトナムの場合でいえば、「フォー(米麺)」や「バインミー(ベトナム版サンドイッチ)」などの食事系から、「カフェスア(ベトナムコーヒー)」や「チェー(ココナッツミルク入りぜんざい)」などのお茶や甘味系を提供するお店なども。屋台の種類は、バラエティーに富んでいます。

それぞれの屋台の周りには、プラスチック製などの小ぶりなテーブルとイスが置かれており、そこで食事や飲み物を楽しむ人々の姿がありました。

時間の変化や人の動きやに合わせて、屋台が移動したり、提供する飲食物の内容が変わったり。どんどん変化していく様子を眺めるのは、とても興味深いものです。

日本では、屋台といえば「お祭りやイベントの時に利用するもの」というイメージが強いかもしれません。それに対してベトナムなどアジアの国々では、屋台は暮らしの一部。人々の生活に溶け込んでいます。

屋台を利用する大きなメリットは、指で差して食べたいものを注文できるということ。その国の言葉が離せないときには、とても便利!

私が屋台でごはんを食べていると、地元の人に話しかけられることもしばしば。屋台は地元の人とのコミュニケーションや、現地の食文化を知るのにもぴったりの場所だと感じています。

フランスのカフェがつくるコミュニティ

ヨーロッパの国々では、おしゃれな喫茶店をよく目にしました。

私たちがよく使う「カフェ」という言葉は、フランス語。もともとはコーヒーそのものの意味でしたが、現在は「コーヒーが飲めるお店」という意味に変わってきたのだとか。

ちなみに、コーヒーや軽食を楽しめるお店は、スペインでは「バル」、イタリアでは「バール」と呼ばれています。呼び方はそれぞれ違っても、コーヒーを飲みながら仲間との会話を楽しむ様子は、とてもよく似ていました。

カフェもまた、コミュニティや食文化をつくる大切な存在といえそうです。

市場から見えてくるもの

世界一周旅行では、その地域の市場を訪ねるようにしていました。市場へ行くと、その国でよく食べられているものが一目でわかります。気になる食材があれば、自分の目で確かめて、その場で購入することもできます。

上の写真は、トルコの市場の様子。トルコはその立地から、東西の食文化が混ざり合っています。いろいろなスパイスが並ぶ様子を眺めているだけで、トルコ料理の多様性が伝わってきます。

市場を歩いていると、珍しい食材に出会うことも。写真はベトナムの貝のお店です。

私が物珍しそうに眺めていると「一口食べてみる?」と聞かれ、味見をさせてもらうこともしばしば。味見をすることで、新しい味や食文化を体験できます(衛生面の心配がある時は遠慮します笑)。

市場もまた、地元の人と触れ合い、現地の食文化に触れられる貴重な場といえそうです。

「風土食ノート」から、味噌づくり会への想い

風土食は、「コミュニティや食文化をつくる」もの。この視点は、2015年11月に発行した「豊田市足助町で見つけた、シンプル風土食ノート(※)」にもつながっています。

このプロジェクトは、「食を通して、人や地域がつながるきっかけができれば」という想いからスタートしました。地元の方に聞き書きをしたレシピを、小さな冊子にまとめています。

※「豊田市足助町で見つけた、シンプル風土食ノート」…詳細はこちらから

冊子制作がきっかけで、いろいろなご縁が生まれました。そのひとつが、地元の人と一緒に仕込む「味噌づくり会」。味噌づくり会は4年間連続で開催し、毎年キャンセル待ちが出るほど大好評でした。

上の写真は、大きな鉄鍋で煮た大豆。これを杵(きね)と臼(うす)ですり潰し、麹と混ぜていきます。

参加したメンバーみんなで協力し合い、味噌を仕込みます。仕込みが終わった後は、五平餅やしし鍋など、現地の料理でランチ会。料理を食べながら、会話がはずみます。

みんなで作った味噌は、毎年同じように仕込んでも、ちょっとした加減や気候などによって味が変化します。「今年のはおいしくできたよ~」「そっちのはどう?」といったやりとりも、とても楽しいものです。

一昔前までは、こうした風景が全国のあちこちで見られたのではないでしょうか。実際に開催してみて、「みんなで行う味噌づくりは、地域のコミュニティづくりにも役立つのでは」と感じるようになりました。

コミュニティや食文化を守り、伝えていく

郷土料理は、コミュニティや食文化をつくるもの。今回は、アジアの屋台やフランスのカフェ、市場の様子とともに、風土食ノートや味噌づくり会での気づきをお伝えしました。

郷土料理の魅力は、単なる味わいだけではありません。その背景に、地域のコミュニティや食文化が深く関わっています。郷土料理を上手に活用すれば、昨今失われつつあるコミュニティや食文化を守り、伝えていくことができるでしょう。そんな切り口からも、郷土料理についてぜひ一緒に考えてみませんか。

●次回(第4回)のテーマは、「自然環境から生まれる」。引き続き、郷土料理の6つの視点から、郷土料理について考えます。

●養生ふうどでは、「郷土料理イベント」の開催や「郷土食サポーター」の募集を行っています。ブログの感想や質問なども随時受付しています。お問合せフォームからお気軽にご連絡ください。