自然環境や気候から生まれる|サハラ砂漠のミントティー(世界の郷土料理4)

世界一周旅行での体験と自身の活動(養生ふうど)をもとに、「郷土料理とは何か?」を考えるシリーズ企画。前回(第3回)は「コミュニティや文化をつくる」をテーマに、郷土料理の広がりや役割について考えました。

第4回のテーマは、郷土料理の6つの視点のうちの「自然環境や気候から生まれる」。

サハラ砂漠(モロッコ)のミントティーや、タラトール(ブルガリア)やガスパチョ(スペイン)のスープ、メニュー監修をしていたカフェ・アルキペラゴさんでの想いなどを紹介しながら、郷土料理について考えてみましょう。

〇この記事を書いた人…薬膳と郷土料理の研究家 松橋かなこ

酷暑のサハラ砂漠で、ミントティーに癒される

心身が疲れている時に自身を癒してくれた食べ物は、時間が経っても記憶に残りやすいもの。

11カ月の世界一周旅行のなかで、そんな食べ物に何度か出会いました。そのひとつが、酷暑のサハラ砂漠で飲んだミントティーです。

サハラ砂漠の気候は?

サハラ砂漠は北アフリカ大陸に位置していて、約11カ国にまたがっています。私自身は、モロッコのメルズーガという町から砂漠にアクセスしました。

メルズーガは、典型的な砂漠気候。

砂漠ときくと「一日中暑いのでは?」と思う人もいるかもしれません。です実際には、夜は上着が必要になるほど冷え込みます。昼夜の寒暖差が激しいのが大きな特徴です。

私の訪れた7月は、なんと最高気温40度を超える酷暑! 昼間はただそこにいるだけで、身体が溶けてしまいそう。

ほんとうに、身の危険を感じるほどの暑さでした(旅のルート計画上、私はこの時期に訪れましたが......ガイドブックには「6~8月は避けるように」と書かれていることが多いです笑)。

サハラ砂漠を、ラクダに乗って歩きました。ラクダでの散歩は、早朝にスタート。太陽が昇って気温が高くなり始めた頃に終わります。

見渡すかぎり、どこまでも砂、砂、砂...という風景が広がっています。土は乾燥しており、植物の姿はほとんど見当たりません。

途中で、オアシスにも立ち寄りました。

真っすぐに通った水路の両側に、ヤシなどの植物が育っています。久しぶりに植物の姿を見たような気がして、何だかホッとしました。

オアシスは、もともと「砂漠のなかで水が湧き植物が生えている緑地」という意味。

そこから派生して「憩いの場」「安らぎの場」という意味もあります。私たちサハラ砂漠でオアシスを訪問して、この言葉の深さを実感しました。

ちなみに、サハラ砂漠は、小説「星の王子さま」が生まれるきっかけとなった場所でもあります。

著者であるフランスの作家・サンテグジュペリは、元飛行士。自身がサハラ砂漠に不時着した経験から、この小説を書いたのだとか。

星の王子さまの名言のひとつに「大切なことは、目に見えない」があります。

どこまでも続く、砂の風景。少し現実離れしたようなこの風景を眺めていると、名言の意味がそれとなく分かるような気がしました。

モロッコ流ミントティーとは

さて前置きが長くなりましたが(笑)、酷暑のサハラ砂漠で飲むモロッコ流ミントティーは、暑さで疲れた身体をやさしく癒してくれました。

爽やかな香りとほのかな苦味、ほんのりとした甘さがスーッと身体の奥に染み渡ります。

ミントは、繁殖力が強く、乾燥した土地でも育ちやすいハーブです。砂漠のなかでミントが育ち、ミントティーとして人々を癒しているのは、まさしく「自然の神秘」。

現地のミントティーは、自然環境や気候のなかで生まれたお茶といえるでしょう。

せっかくなので、モロッコ流ミントティーの作り方をご紹介しますね。

日本でミントティーといえば、ミントの葉っぱ(生・乾燥)に熱湯を注いで、数分待ったものを指すことが多いです。

それに対して、モロッコのミントティーは、中国緑茶とスペアミント(生)、角砂糖を煮出して作ります。できあがったミントティーは、高い位置からグラスに注ぎます。

ポイントは、グラスの端に泡が立つようにすること。サハラ砂漠に暮らす家庭でミントティーをいただきましたが、ミントティーを淹れる所作も、とても興味深かったです。

ブルガリアのヨーグルトスープ「タラトール」

続いてご紹介するのは、ブルガリアの伝統的なスープです。ブルガリアといえば、ヨーグルトを古くから作っている国としてよく知られています。

日本では甘く味付したデザート向きのヨーグルトが多いですが、ブルガリアではいろいろな料理にヨーグルトを使います。

夏の定番料理のひとつが「タラトール」と呼ばれるヨーグルトスープです。

タラトールは、刻んだキュウリにヨーグルト・水を加え、塩で味付けをします。お好みで、すりおろしたニンニクやくるみ、黒コショウ、刻んだディル、オリーブオイルを加えます。

簡単に作れて、適度にクールダウンできるので、夏の暑い時期にもぴったりです。

代表的な家庭料理なので、各家庭によっていろいろなレシピがあるのだとか。このタラトールは、現地で古い歴史を持つヨーグルトを、気候に合わせて活用した郷土料理といえそうです。

スペインの冷製スープ「ガスパチョ」

スペインで出会った冷製スープ「ガスパチョ」もまた、強い陽射しで火照った身体を心地よく癒してくれました。

夏野菜がたっぷり使われているので、現地では、食欲が落ちがちな夏場の栄養補給としても親しまれています。

ガスパチョとは、スペイン・アンダルシア地方で生まれた伝統的なスープのひとつ。夏の家庭料理とされていますが、紙パックなどに入ったものをスーパーなどでもよく見かけました。

ガスパチョに使う材料は、完熟トマトやきゅうり、ピーマン、玉ねぎなどの夏野菜と、バケット少々。

家庭によってさまざまな味付けがありますが、塩やオリーブオイル、酢、にんにくなどを加えます。

ミキサーを使うとあっという間に完成!作り置きもできるので、まとめて作っておくと、夏バテ気味の時や忙しい時にも大助かりです。

現地で入手できる旬の野菜や調味料を使った、栄養たっぷりのガスパチョ。

ガスパチョは、暑い夏を乗り切る心強い見方です。このガスパチョもまた、自然環境や気候から生まれた郷土料理といえそうですね。

ガーデンカフェ「アルキペラゴ」さん、メニュー監修への想い

自然環境や気候から生まれる食。

その在り方はシンプルながら、私たちの心身をやさしく癒してくれます。この視点は、カフェのメニュー監修のなかで強く意識していたことのひとつです。

2016年2月~2019年12月までの約4年間、愛知県長久手市にあるgarden and cafe Archi-Pel-Ago(アルキペラゴ※)さんで、薬膳の考え方を取り入れた「養生ごはんランチ(月替わり)」のメニュー監修をしていました。

● garden and cafe Archi-Pel-Ago(アルキペラゴ)さん

外構・景観設計の会社ブルームアンドブルームに併設するガーデンカフェ。天気のいい日には、テラス席での飲食も楽しめる。2021年1月よりリニューアルオープン。

URL https://archi-pel-ago.com/

養生ごはんランチは、一汁三菜に小さなデザートとお茶が付きます(季節によって若干変更はあり)。

カフェのスタッフの皆さんと試食会を毎月開催して、メニューを決めていました。

上の写真は、夏野菜をたっぷり使った8月のランチ。愛知県の伝統ある赤味噌と旬のトマトを組み合わせた「プチトマトの赤出汁」を添えています。

赤味噌は長期間熟成して作られていて、滋養たっぷり。

「食欲が落ちがちな夏場にこそ、赤味噌を食べてもらいたい」という想いから生まれたメニューです。酸味の効いた味噌汁は、お客さまにも好評でした。

メニュー監修で大切にしていたことは、食を通して、自然や気候と寄り添う暮らしを伝えていくこと。

たとえば、お客さまが自宅でもその味を楽しめるように、簡単レシピをSNSで公開したりしていました。

カフェを利用した方から「どんよりしていた気持ちがスーッと軽くなった」「心も身体も満たされた」というメッセージをいただくこともしばしば。

旬の食材を取り入れた食事や、自然に寄り添う暮らしの大切さを感じることもよくありました。

自然環境や気候から生まれる食を伝えていく

自然環境や気候から生まれる食

今回は、モロッコのミントティーやブルガリアのタラトール、スペインのガスパチョの事例とともに、カフェ・アルキペラゴさんでのメニュー監修での想いをご紹介しました。

自然環境や気候から生まれる食は、シンプルでありながらも、人々をやさしく癒してくれます。

自然との距離が遠くなり、季節を感じることが少なくなりつつある昨今。しかし、食に意識を向けることで、自然環境や気候に寄り添う暮らしができるのではないでしょうか。

こうした気付きから、養生ふうどでは、薬膳の考え方をベースに「郷土料理をまもる、つくる、伝える」活動をしています。郷土料理について、ぜひ一緒に考えてみませんか。

●次回(第5回)のテーマは、「季節の移ろいにより育まれる」。引き続き、郷土料理の6つの視点から、風土食について考えます。

●養生ふうどでは、「郷土料理イベント」の開催や「郷土食サポーター」の募集を行っています。ブログの感想や質問なども随時受付しています。お問合せフォームからお気軽にご連絡ください。