季節の移ろいにより育まれる|ぶどうの葉で包む料理「サルマーレ」(世界の郷土料理5)

世界一周旅行での体験と自身の活動(養生ふうど)をもとに、「郷土料理とは何か?」を考えるシリーズ企画。

前回(第4回)は「自然環境や気候から生まれる」をテーマとし、郷土料理の根っこについて考えました。

続いて第5回のテーマは、郷土料理の6つの視点のうちの「季節の移ろいにより育まれる」。

ぶどうの葉を使ったルーマニア料理やリトアニアの保存食づくりとともに、ふうどで以前開催していた「養生ごはん教室」「暦暮らし教室」を紹介しながら、郷土料理について考えてみましょう。

〇この記事を書いた人…薬膳と郷土料理の研究家 松橋かなこ

ぶどうの葉で包んだルーマニア料理「サルマーレ」

中欧・東欧諸国では、いろいろな種類の煮込み料理やスープを食べました。

そのなかでも印象的だったのが、ルーマニアで食べた「サルマーレ」。ロールキャベツによく似た料理です。

サルマーレはミンチ状になった肉と酢漬けにした野菜をぶどうの葉で包み、スパイスの効いたトマトソースと一緒に、葉が柔らかくなるまでじっくりと煮込んで作ります。

キャベツや玉ねぎなどの酢漬けを使うため、酸味の効いた仕上がりです。お米を包む場合もあり、家庭ごとに独自のレシピがあります。

ぶどうの葉を食べたのはルーマニアが初めて。ほのかな香りと苦味がありとてもおいしかったです。ぶどうの葉が手に入らない場合には、キャベツの葉で作ることもあるのだとか。

現地を訪れて初めて知ったのですが、ルーマニアの冬は大変厳しく、冬に備えて保存食づくりが盛んに行われています。

代表的なものとしては、サルマーレに使うような野菜の酢漬けのほか、トマトを煮込んだトマトソース「ザルザバ」、果物を煮たジャムやコンポートなど。

今でこそ、冬の間も野菜が店頭に並ぶようになりましたが、かつては保存食だけで冬を越していたそうです。

サルマーレは、貴重な保存食を使った風味豊かな料理。その味わい深さは、時間と手間をかけて作られる料理ならではと感じました。

リトアニアの保存食と手作りを楽しむ暮らし

現地に行って初めて分かることは多いもの。それこそが、旅の醍醐味ともいえるでしょう。

そうした意味では、リトアニアの暮らしはとても興味深いものでした。

リトアニアはバルト三国のひとつで、豊かな自然に恵まれています。ルーマニアと同じく冬の寒さが厳しいため、保存食づくりが盛んに行われています。

一方で、短い夏を快適に過ごすため、リトアニアでは郊外に「サマーハウス」と呼ばれる別宅を持っている人が多いです。

サマーハウスでは、ベリーやきのこを収穫し、保存食を作って楽しみます。

私が訪れた時には、地元の女性がベリーを摘んでいて、フレッシュなベリーを試食させてもらいました。甘味と酸味がギュッと凝縮していて、その鮮度に驚きました。

リトアニアの主食は、酸味の効いたライ麦パン。パン焼き窯の隣では、窯の熱を利用して、ハーブや木の実を干す風景をよく見かけました。

同様に、肉の燻製料理を作ったり、保存食として塩漬けや酢漬けを作ったりする様子もよく目にしました。

旬の食材を大切にして、料理や保存食をつくる

ふうどでは、2014年~2020年の間「養生ごはん教室」「暦暮らし教室」を開催してきました。

教室でいつも心掛けていたのは、「旬の食材を大切にして、料理や保存食をつくる」ということ。これは、先に紹介したルーマニアやリトアニアなど旅の経験も深く関わっています。

たとえば梅雨は、梅や紫蘇、みょうが、新生姜などを使った料理や保存食をよく紹介していました。

旬の食材を使った保存食があると、忙しい時にもとても心強いもの。それだけでなく、次の季節も心身を健やかに保つことができます。

たとえば、梅雨に梅の保存食を作っておくと、夏も秋も、梅の力で健やかに過ごすことができます。

春先の暦暮らし教室では、「身近な野草を摘んで食べてみよう」「摘んだ野草で野草茶を作ってみよう」という話のなかで、試食とともにその作り方もお伝えしました。

教室の終了後に「子どもと一緒に野草を摘んで味わってみた」「初めての体験だったけれど、おいしくて楽しかった」というメッセージをいただくこともありました。

お金を出せばいろいろなものが簡単に手に入る時代。しかし、自分自身で心を込めて作った料理や保存食には格別の味わいがあるーー。

参加した皆さんの様子を見ながら、旬の食材を食べる意味や食の大切さを感じることもよくありました。

季節の移ろいによって育まれる食を伝えていく

季節の移ろいによって育まれる食

今回は、ルーマニアのサルマーレやリトアニアの保存食とともに、「養生ごはん教室」「暦暮らし教室」での想いなどを紹介しました。

季節の移ろいによって育まれる食には、味わい深さがあります。保存食を作るゆったりとした時間は、私たちを心の底から癒してくれます。

こうした気付きをもとに、養生ふうどでは「郷土料理をまもる、つくる、伝える」活動をしています。郷土料理について、ぜひ一緒に考えてみませんか。

●最終回(第6回)のテーマは、「風景を創出する」。引き続き、郷土料理の6つの視点から、郷土料理について考えます。

●養生ふうどでは、「郷土料理イベント」の開催や「郷土食サポーター」の募集を行っています。ブログの感想や質問なども随時受付しています。お問合せフォームからお気軽にご連絡ください。