風景を創出する|南インドのバナナの葉のごはんとバナナ畑(世界の郷土料理6)

世界一周旅行での体験と自身の活動(郷土料理)をもとに、「郷土料理とは何か?」を考えるシリーズ企画。前回(第5回)は「季節の移ろいにより育まれる」をテーマに、季節の変化に合わせた料理や保存食について紹介しました。

最終回となる第6回のテーマは、郷土料理の6つの視点のうちの「風景を創出する」。

南インドで出会ったバナナの葉っぱの上に盛り付けされた料理とバナナ畑の景観のつながりとともに、現在注力している執筆のテーマについて紹介します。今回は、郷土料理と風景の関係について考えてみましょう。

〇この記事を書いた人…薬膳と郷土料理の研究家 松橋かなこ

南インド、バナナの葉っぱのごはんとバナナ畑

南インドを旅していると、バナナの葉に盛り付けされた料理によく出会いました。南インドでは、バナナの生産が盛んで、バナナの葉も余すところなく活用しています。

バナナの葉は、耐水性や耐熱性、抗菌作用などがあるとされています。カレーなどの料理を乗せるのにもぴったりの素材です。

現地では、動物性の食材を使わないベジタリアン料理が多いので、食後はバナナの葉をさっと洗うだけで簡単に片付けできます。

下の写真は、ローカル列車に乗った時に食べた、バナナの葉に包まれたお弁当(ごはんに数種類のカレーが添えられたもの)。車窓からバナナ畑を眺めながらこのお弁当を食べていると、自然に自分自身が溶け込んでいくような感覚になりました。

現地の人たちはカレーを食べ終えると、車窓からバナナの葉をポイッ。。。

その光景を見た時に思わず「捨ててしまっていいの?」と言いたくなりました。後で確認したところでは、「バナナの葉が分解されて土に還っていくから大丈夫」なのだとか(その真偽はよく分かりませんが……)。

インドのミルクティー「チャイ」と紅茶畑

続いて紹介するのはインドの定番の飲み物、チャイ。紅茶の葉をミルクで煮出して作る、ミルクティーです。カルダモンや生姜など、季節や体調に合わせてスパイスをブレンドします。

インドを旅していると、どこに行ってもチャイを売るスタンドを見かけました。ちょっとした軽食にもおやつにも、チャイがよく飲まれています。

旅の途中で、紅茶畑に立ち寄りました。山の斜面にどこまでも広がる、茶畑。熱い太陽の光が、さんさんと茶畑に降り注ぎます。

理由はわかりませんが、観光客の姿は、どこにも見当たりません。現地の若者から「何をするために来たの?」と不思議そうに質問されるほどでした(笑)。

「郷土料理と風景のつながり」を描写する

郷土料理と風景は深いところでつながっているーー。バナナの葉とバナナ畑、チャイと紅茶畑のように、食材と生産現場の風景には、切っても切り離せない関係があります。

それは、現地の人にとってはよく見慣れた風景かもしれません。しかし、私の目からみれば、とても貴重な風景であり、後世に伝えたい風景であるように思います。

2018年頃から私は、ライターとして取材・プロモーション支援に取り組んでいます。そのなかで常に意識いしているのは「郷土料理と風景のつながり」を描写する、ということ。

たとえば、「日本文化の入り口マガジン和樂web」で執筆した、銀杏(ぎんなん)の記事もそのひとつ。

全国でも有数の銀杏の生産地・愛知県祖父江町は、秋になるとイチョウが黄葉し、あたり一面が幽玄な景色で包まれます。

そこで、記事の制作にあたり、銀杏の食べ方やレシピを伝えるだけでなく、風景や風土も紹介したいと考えました。樹齢300年のいちょうの大木や幹に触れた時の感覚ーー。その一つひとつを描写するように心がけて、記事にまとめました。

郷土料理を守ることは、風景を守ること

郷土料理と風景は深く結び付いています。郷土料理を守ることは、その土地ならではの風景を守ることにもつながります。

これまでの連載記事で書いてきたように、郷土料理は、自然環境やコミュニティといったさまざまな要素のなかで生まれ、長い時間をかけて継承されてきたものです。しかし、一度失われてしまうと、残念ながら簡単に回復することはできません。

こうした気付きをもとに、養生ふうどでは「郷土料理をまもる、つくる、伝える」活動をしています。できるだけいろんな人を巻き込みながら、この活動を楽しく続けていきたいと思っています。郷土料理について、一緒に考えてみませんか。

●連載記事「世界の風土食」は今回で終わりです。ありがとうございました!これまでの記事については、郷土料理の6つの視点からご覧ください。

●養生ふうどでは、「郷土料理イベント」の開催や「郷土食サポーター」の募集を行っています。ブログの感想や質問なども随時受付しています。お問合せフォームからお気軽にご連絡ください。